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EXPO 2025 大阪・関西万博ルポ②万博とミャクミャクが描く新しい資金モデル|コラム|モニクル総研

作成者: 篠田 尚子|2025.09.10

「脈々」と受け継ぐ名前、異色キャラクターの歩み

大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」は、ユニークな誕生の経緯を持っている。デザインは一般公募から選ばれ、愛称も全国から寄せられた3万件以上の候補の中から決定された。その名は「脈々と受け継がれていく」という日本語に由来し、万博のテーマである「いのち輝く未来社会」を象徴する言葉としても相応しい。

登場当初は、筆者を含め、独特な造形に戸惑う声も少なくなかったように思う。だが、イラストではない姿が公開されると、その丸みを帯びたフォルムや動きの愛嬌が次第に受け入れられ、SNSを通じて着実に親しまれる存在へと変わっていった。さらに、協会が定めたガイドラインに基づき、二次創作が一定の範囲で許可されたことも、ファンアートやユーモラスな投稿を後押しし、人気拡大に拍車をかけた。

行列と熱気 ─ ショップで見た「ミャクミャク現象」

実際に、大阪市内や会場周辺を訪れると、その人気の広がりを実感することができる。会場内に複数展開されているオフィシャルショップにはどこも人だかりがあり、1回2,000円で大・中・小のいずれかのぬいぐるみが当たる「ミャクミャクくじ」は、炎天下にもかかわらず最長で2時間待ち(!)の行列をなしていた。かく言う筆者自身も、友人と共にショップを訪れ、豊富な商品展開に圧倒されながらグッズ選びを楽しんだ。

記念品を超えて ─ ライセンス制度が描く収益モデル

ところで、今回の大阪・関西万博では、これまでになかったマーチャンダイジングの新たな試みが導入されていることをご存じだろうか。

会場内外で購入できるオフィシャルグッズには、シリアルナンバー入りのホログラムステッカーとともに以下の一文が記されている。
――「『2025 大阪・関西万博公式ライセンス商品』はライセンス契約に基づいて製造されており、売り上げの一部は、本万博のために活用されます。」


一見するとありふれた文言に見えるが、これが意味するところは大きい。実は、今回の万博では、公式ライセンス制度を通じてグッズ販売の収益を体系的に運営費に充当するモデルが導入されている。その背景には、運営主体である日本国際博覧会協会の資金計画がある。約1,160億円にのぼる運営費のうち、主力の入場券収入(969億円)を補う形で「その他収入」191億円が組み込まれている。 「その他収入」の柱は物販等のロイヤリティ収入(80億円)と、ロゴ・キャラクター等のライセンス事業収入(30億円)であり、この仕組みを支えているのが「公式ライセンス商品プログラム」である。権利関係を一括管理しているマスターライセンスオフィス(MLO)が窓口となり、企業はライセンス契約を結んだうえで商品を展開する。製造・販売にあたっては、メーカー希望小売価格に応じたロイヤリティが課され、さらに「セントラルマーケティング資金」として販売価格の1%が徴収される。こうして集められた資金は、万博全体の広報やマーケティング活動にも活用される仕組みだ。単なる商品化許可にとどまらず、体系的な収益モデルとして整備されている点が特徴的である。

賑わいがそのまま財源に ─ オフィシャルストアの構造

会場内に4店舗あるオフィシャルストアの収益構造も明確に定められている。事業者は売上に応じて「売上歩合納付金(13%)」と「ストアライセンス料(5.5%)」を協会に納めることになっており、合計で18.5%以上が運営費に還元される。ショップでの賑わいがそのまま万博運営の財源につながる設計となっており、参加者にとってはグッズ購入が記念品獲得であると同時に、間接的なイベント支援にもなる。

「モリゾー」と「キッコロ」にはなかった制度設計

この点で、2005年の愛・地球博とは大きな違いがある。当時も「モリゾー」と「キッコロ」という人気キャラクターを軸にしたグッズ販売は盛況だったが、収益は、主に会計処理上は「剰余金」として計上され、個別の商品購入が「支援」として直接的に位置づけられることはなかった。結果として、キャラクター人気と会場内の消費行動は強い相乗効果を生んだものの、制度的な収益モデルとしては十分に整理されていなかったのである。大阪・関西万博では、その経験を踏まえ、ライセンス契約やストア納付といった仕組みを初めから組み込んだ点に新しさがある。グッズ収益は会計処理上、運営費計画として計上される。つまり、グッズ収益を明示的に「運営を支える柱」として設計したことで、消費行動そのものに新しい意味が与えられている。

今回のマーチャンダイジング戦略は、単に万博の収益確保にとどまらない。来場者の消費行動を「記念品購入」から「イベント支援」へと意味づけ直し、制度的に運営資金へ結びつける仕組みを提示した点にこそ大きな意義がある。

「かわいいから買う」が「未来を支える」へ

とはいえ、実際に会場でグッズを手に取る来場者の動機はもっと単純だ。ミャクミャクがかわいいから。ユニークだから。そして何よりも商品展開が豊富で、見ているだけでも楽しい。そんな素直な気持ちが購買を後押しし、結果として万博の運営を支える仕組みに組み込まれている。ちなみに、今回MLOが権利関係を一括管理していることで、多様な業者が参入できる環境が整い、競争と多様性が両立する仕組みとなっている。その結果として世代を問わず受け入れられるグッズが生まれ、クオリティも高くなっている点が購買意欲を後押ししているのではと筆者は考えている。

思えば、発表当初は賛否が分かれたミャクミャクも、今やすっかり会場の主役である。その不思議なフォルムと、けなげに盛り上げようとする姿は、多くの人の心を動かしてきた。オフィシャルグッズを通じて人気が広がり、支援の輪がつながっていく光景は、キャラクターが単なる「マスコット」にとどまらない存在へと成長したことを示している。

グッズ購入という小さな行為が、未来をつくる大きな力に変わる。その仕掛けの中心にミャクミャクがいることは、やはり象徴的である。


かさばるお菓子を買い過ぎても安心。

会場内のヤマト運輸「宅配・手荷物一時預かりカウンター」で宅急便を送ることができる。


関西とゆかりのある企業とのコラボアイテムも多く展開されている。
左:奈良・中川正七商店の「注染こてぬぐい」

右:京都・俵屋吉富の「ばんぱくdeあめちゃん(京の塩飴)」


おなじみの赤と青だけでなく、白黒のシックなカラーリングの「黒ミャクミャク」も大人気