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モニクル総研参画に寄せてー篠田尚子ー
投資判断に寄り添う情報発信を

モニクル総研 アナリスト 篠田尚子

はじめに

モニクル総研の研究員として今後活動をしていくにあたり、本稿では、ファンドアナリストである筆者のこれまでのキャリアを振り返るとともに、モニクル総研で取り組みたい内容についてご紹介したい。

れるようにして辿り着いた、ファンドアナリストという仕事

大学を卒業後、筆者はまず銀行の支店でリテール営業に携わった。日々、数字とお客様の双方に向き合う中で、次第に金融情報の提供ビジネスに興味を持つようになる。そして第二新卒と呼ばれるタイミングで、ロイター・ジャパン(当時)の傘下にある投資信託評価機関「Lipper(リッパー)」へ転職することを決意した。投資信託の評価・分析を専門とする企業が存在することすら知らなかったが、その分野に対する純粋な興味が背中を押してくれた。

リッパー社は、1973年に米国のファンドアナリスト A. マイケル・リッパーによって設立された会社で、1998年にロイター・グループの一員となってからは、資産運用情報戦略の中核を担ってきた。日本では2000年代初頭、小泉内閣の掲げた「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、投資信託市場が急速に注目されるようになり、日本拠点のリッパー・ジャパンとしても、データ分析と情報提供の強化を図っていた。

米国における投信評価の歴史や、評価機関としてのリッパーの立ち位置については別の機会に詳述したいが、この会社の最大の特徴は、何よりも「数字だけ」に基づく客観的で定量的な分析にある。そして、その分析を支えているのが膨大な量のデータだ。

筆者が最初に任された仕事は、運用会社や各協会などのデータ提供元から日々届けられるデータをひたすら収集し、正確にデータベースへと入力・蓄積していくという、地味で根気のいる業務だった。しかし、不思議なもので、そうした数字に日々触れているうちに、銘柄の特徴が自然と頭に入ってくる。いつしか、市場の動きやファンドのトレンドも、肌感覚で捉えられるようになっていった。

決して派手ではないが、静かに、着実に金融の深部に踏み込んでいく──そんな日々が、ファンドアナリストという今の私の原点となっている。

ファンド分析から個人投資家との接点を求めて

他方、定量的なデータだけでは分からない側面もあるということを、ファンドアナリストとして経験を重ねる過程で実感していた。

そもそも投資信託は、多くの人の手が関わる特殊な仕組みを持った金融商品である。運用責任者であるファンドマネージャーの運用能力や、その結果としてのパフォーマンスが重要であることは言うまでもないが、ファンド設定時の背景やマーケティングの方法によって残高の積み上がり方に差が出ることも多い。どれだけ優れた運用を行っていても、資金が集まらなければ運用効率は悪化し、信託報酬などの総経費率が高止まりしてしまう。これは運用会社にとっても、最終的にリターンを受け取る個人投資家にとっても望ましくない事態である。

また同時に筆者は、個人投資家の存在をどこか遠くに感じてもいた。ロイター・グループの主要顧客は金融機関であり、ビジネスの中心は法人向けであった。当時はまだ、主要顧客である運用会社が個人投資家向けにダイレクトマーケティングを行う環境は整っておらず、運用会社が販売会社の営業支援をする上で必要な情報やデータをリッパーが提供する、という関係性にあった。

そうした環境の中で、より多面的な分析力と情報発信力を身に付け、ファンドアナリストとして、運用会社、販売会社、個人投資家の架け橋となる必要性を強く感じた。さらに、個人投資家に直接情報を届けたいという思いが募り、旧NISA制度の導入準備が始まるタイミングで、7年間勤めたリッパーを退職し、楽天証券に転職した。

投資信託を“伝える”ことの意味を問い続けて

楽天に入社してわずか2日後の2013年11月3日、東北楽天ゴールデンイーグルスが、故・星野仙一監督のもとで読売ジャイアンツを破り、球団創設9年目にして悲願の日本一に輝いた。そのとき社内にあふれていた興奮と熱気は、社員としても、そして一野球ファンとしても、今でも鮮明に記憶に残っている。

しかし、まさかその優勝から干支がひと回りするほどの年月を、オンライン証券ビジネスの世界にどっぷりと浸かって過ごすことになるとは、当時は想像もしていなかった。それほどまでに、成長期のオンライン証券会社での経験は、濃密で充実したものだった。

これまでの経験は今後レポートやコラムで紹介していくが、本稿で1つだけ強調したいのは、筆者が投資信託・ライフプランニングの専門家として、常に以下の2つの視点を意識して情報発信してきたことである。

  1.  個人投資家が着実に理解すべきこと
  2.  個人投資家が必ずしも把握しなくてよいが、投資信託の販売や情報提供に携わる人が押さえておくべきこと

モニクル総研では、「1」の視点はもちろん、これまで社内勉強会など限られた場でしか共有してこなかった「2」の視点も積極的に発信していく。

個人投資家一人ひとりの投資判断に寄り添う情報とは何か。投資家が適切な判断を下すために必要な知識とは何か。金融業界の関係者が提供すべき本質的な情報とは何か。これまでの実務経験を土台に、モニクル総研では、そうした問いへの探究を深め、より多くの人に届くかたちで発信していきたいと考えている。

 

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