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“推し”と生きる時代のマネーリテラシー
お金を活かすという選択 ― 推し活時代の新しい資産観

“推し”と生きる時代のマネーリテラシー

筋金入りのオタクとして

資産形成とは、「お金を今使うか、それとも将来使うために取っておくか」という選択に他ならない。将来が遠いほど、インフレへの備えは不可欠になる。だからこそ、株式や債券等に投資し、お金の価値を時代に取り残さないようにする必要がある。これが資産運用の本質である。

投資信託は、個人が資産運用を始めるための一つの手段にすぎない。筆者はファンドアナリストとして、長年にわたり投資信託を分析してきた。ありがたいことに、いくつかの書籍を執筆する機会にも恵まれた。その中でも、2019年に刊行した『一生楽しく浪費するためのお金の話』は、筆者にとって大きな転機となった一冊である。(2024年末にはマンガ版も刊行。)

本書は、あるイベントへの登壇をきっかけに誕生した。娯楽費を削らずに人生の荒波に備えたい――そんな思いを抱く人たちに向けて、「オタクのためのお金との付き合い方」を伝える場を設けたところ、大きな反響を得た。書籍でも、イベント同様にNISAやiDeCoといった制度の基本を解説しつつ、アイドル、美容、アニメ、スポーツ観戦といった「沼」ごとのお金の流れを分析し、ケーススタディとしてまとめた。

何を隠そう、筆者自身も、ファンドアナリストである前に筋金入りのオタクである(オタクのジャンル=「沼」についてはぜひ拙著でご確認いただきたい)。お金を使うことこそが、稼ぐこと、貯めること、そして、増やすことの原動力になると身をもって体感してきた。お金は使うためにある。だからこそ、上手に使える人ほど、お金と上手に付き合える。これが、アナリストであり、ファイナンシャル・プランナーである筆者の持論である。

持続可能なオタク生活を送るには

同時に、持続可能なオタク生活を送るには、金融や経済の仕組みを一定程度理解する必要がある。最近では「推し活」という言葉が一般的になり、その経済効果に着目したマーケティングも目立ってきた。しかし、どれだけ「推し」が尊くとも、身を滅ぼすような浪費は避けなければならない。

例えば、ライブ遠征のためのチケット代に加えて、交通費や宿泊費が重なると、一度のイベントで十万円単位の出費になることもある。さらに、限定グッズや抽選販売、オンライン配信での投げ銭、ゲーム内課金など、「推し」を応援する選択肢は多様化しており、知らず知らずのうちに大きな出費を重ねてしまう人も少なくない。近年は訪日外国人観光客の増加で宿泊費が高騰し、これまで以上に負担が重くなりやすくなっているという点も見逃せない。

だからこそ、健全に「推し」を応援し続けるためには、過剰なマーケティングや巧妙な販売戦略に流されず、カモにされないためのリテラシーを身につけることもまた重要だ。お金の使い方を主体的に考え、計画的に資金を管理するとともに、将来の推し活資金を確保するための資産運用も視野に入れることが、長く楽しく推し活を続けるための土台となる。

「株式投資」は推し活か?

ところで、最近は投資の世界でも「株式投資は推し活」「“推し”銘柄を見つけよう」といった言い回しを目にするようになった。投資への関心を高めるきっかけとしては悪くないが、ここで一つ強調しておきたい。企業の株を買うということは、ファンになることではなく、その企業のオーナーになることを意味する。ファンは経済的な見返りを求めることなく応援するが、オーナーはリターンを期待して当然である。応援と投資は似ているようで、本質的にはまったく異なる行為だ。感情に流されず、冷静な視点でお金と向き合うこと。それが、投資を「浪費」ではなく「資産形成」に変える第一歩である。

お金は、ただ貯めるものでも、ただ使うものでもない。自分の価値観や楽しみを支える手段であり、人生そのものを形づくるツールである。だからこそ、楽しみながら学び、使い、そして備える姿勢が大切になる。お金とどう向き合うかは、その人の人生観そのものだ。推しも、未来も、どちらも大切にするために――そんな「自分らしいお金の付き合い方」を、ライフワークとして考え、本コラムでも定点観測的に取り上げていきたい。

 

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